無題

めっきり見ることがなくなったfacebook。最近はほとんどログインもしないのだが、ある日メッセンジャーにこんなメッセージが来ていた。



「初めまして。A子の父の〜と申します。唐突にメッセージを送ることを先にお詫びさせていただきます…….」

それはまだ自分がエネルギーに満ちていた頃に六本木のクラブでナンパし、1年くらい細々と関係が続いたA子の父親からだった。



彼女とは確かに今でもfacebookで繋がってはいたが連絡などもう何年もしていない。

最後に会ったのは確かA子が大学を卒業し、彼女がひさしぶりに東京に仕事で来た時に会ったのが最後だったような気がする。正直、その程度しか覚えていない。



メッセージは以下に続いた

「先日A子の遺品を整理していた際、あなたと思われる写真が出てきました。A子の交際関係は把握していませんが、あなたのことを大切に思っていたのだと思い、連絡をいたしました」



A子はすでにこの世からいなくなっていた。

彼女の父は気持ちの整理がついた後、A子の遺品を整理した。そして俺と娘が一緒に写っている写真を見つけ、それが何か彼女にとって大切な人のような気がしてFacebookで俺のことを見つけ連絡してくれたそうだ。


「ただ娘に起きた出来事を伝えたい」

彼女の父が俺に連絡をくれた理由はそれだけだった。

彼女と写真を撮った記憶などないが、父親がそう言うのだから一枚くらいは撮ったのかもしれない。



A子に起きた出来事は病気だった。父親は詳細までは話してくれなかったが

「彼女は、最後まで病気と闘ったが力尽きてしまった。」

それだけは分かった。そしてもう一つ、その病気が発症したのは俺と最後に会った少し前だったということも。



彼女の父親とのメッセージのやりとりも終わり、俺はわざわざ連絡をしてくれたことに対して丁寧にお礼を述べてメッセンジャーを閉じた。



あの時、彼女は「俺に付き合う気がない」ことを知りながら都合の良い時に俺に会ってくれた。

いろいろな意味で都合の良い関係性だった。彼女でもない、友達でもない、あいまいな関係。

会わなくなってからも、彼女への未練などこれっぽっちもなかった。ナンパして引っかかり、たまたましばらく続いただけの女。

そして、ただfacebookで繋がっているだけの関係性。



それなのに、彼女の父親からの連絡以降、俺は彼女の夢を何度も見た。

その内容は、起きた瞬間忘れてしまうようなぼんやりした夢が多かったのだが、一度だけはっきりと、まるで現実の世界での出来事のような夢を見た。

それは彼女と最後に会った日、都内にある実際に泊まったホテルの一室での出来事が忠実に再現された夢だった。


ビールと缶チューハイを飲みながらベットボードに寄りかかる俺と彼女。

彼女がスマホを片手に「写真撮ってもいい?」と控えめに聞いてくる。写真を撮られることを嫌う俺に配慮して。遠慮がちに。

俺は酔っ払って気分も良く「いいよ」と言った。彼女は見たことのないほどの可愛い笑顔でにっこり笑うとシャッターを押した。




写真を撮ったのはあの一枚だけ。間違いない。


俺は夢の中で彼女との記憶を思い出したのだ。



彼女の父親は、現像されたあの一枚の写メに映る娘の笑顔を見てそう思ったに違いない。そして俺は、彼女が俺との思い出を今も大事にしてくれていたことを知った。



あのとき、彼女がこんなに早くこの世を去ってしまうことを知っていたら俺は何かしただろうか。

こんなに人生が早く終わってしまうのならば俺にできることがなにかあったのではないだろうか。



俺は何度も何度も繰り返し頭の中で反芻した。




「人は幸せになるために生まれてくる」と言うけれど、彼女は幸せになれたのだろうか。




人の死により呼び覚まされる記憶もある。



彼女は俺の中で今も生きている。




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プロフィール

俺旅

Author:俺旅

・2015年に仕事を辞め旅を始める
・旅歴2年
・現在海外を転々としながら生活中
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